上高地を楽しむ

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【 かみこうち散策記 Vol.1 】90分で行ける、もうひとつの上高地

~初心者にも最適な岳沢(だけさわ)軽登山~

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河童橋から見上げる穂高連峰。右から目をやれば明神岳に前穂高岳、吊尾根をたどると奥穂高岳、そしてロバの耳・ジャンダルム、天狗岩の左には間ノ岳・西穂高岳へと続く壮大な連山を見渡せる。上高地屈指の景観、その正面中腹にあるのが岳沢。天気の良い日などは、よく見ると岳沢小屋の屋根が肉眼でも確認できる。今日これから目指すのは、この河童橋を遠く見下ろせるという岳沢のガレ場。ちょうど白く帯のようになった辺りで、最近ではここまで散策トレッキングに行く人たちも増えているという。以前から一度行ってみたいと思っていたけれど、山初心者としてはなかなか行動に移せずにいた。そんな折、五千尺ホテル上高地が企画するガイド付き岳沢ツアーがあると聞き、早速参加してみることにした。

平地散策からタテ方向への散策へ

時刻は午後1時。ガイドさんの話に耳を傾けながらゆっくりと歩き、午後4時には戻るという行程。うす曇りの空には所々黒っぽい雲も見受けられたが、穂高連峰の稜線も岳沢もはっきりと見えている。途中雨にならないことを祈りながら出発した。今回案内していただいたのは女性ガイドの石原裕美さん。一行は石原さんのご家族4人(ご主人、小学生の兄弟、そしてお母さん)と我々2人。合わせて7人のバラエティーに富んだ賑やかなパーティとなった。
五千尺ホテル上高地前を出発し、河童橋を渡って梓川右岸沿いの遊歩道を進む。岳沢湿原の木道を左に外れると岳沢登山口の案内板があった。岳沢小屋まで4kmとの表示。小屋までの登山道は上から下へ①~⑩まで途中ポイントに番号が振られていて、今回目指すは標高1,760mの見晴台⑥地点。ここから明神池に行くよりも距離は短い、とは言え標高差が260m。さあ、頑張って登りましょう!

森の香り、空気の変化を感じながら

登山道は整備されている。多少のぬかるみはあったものの沢からの出水はなく、数日前のまとまった雨の影響はほとんど感じられなかった。木の根っこや比較的平らな花崗岩を縫うように歩を進めていく。呼吸を整えながら一歩一歩。
50年ほど前に来たことがあるというお母さんは、これが2回目の上高地。
「当時の大正池は立ち枯れの木がたくさんあって、もっと大きかったような記憶がありますねぇ。」
「今日は岳沢に登るつもりじゃなかったんだけど…。でも、せっかくだから。」
そんな会話をしながらトレッキングポールをうまく使って慎重に登る。つい最近、富士登山にも行ったという孫たちのサポートがなんとも心強い。

せっかくの散策トレッキング、足元ばかり見ていてもつまらない。視線を上げると、辺りはシラビソやコメツガなど常緑針葉樹の林が我々を上へ上へと導くように続いている。途中、木の幹に生えた色鮮やかなミヤママスタケを見つけた。
耳に心地よい沢の音、時おり射し込む柔らかな木漏れ日、そして心落ち着く木々の香り。ほど良い汗をかきながらもまさに今、森林浴を満喫している。

ちなみにこの香り、樹木から発散される〝フィトンチッド〟と呼ばれる成分なのだそうだ。後日調べたら、人間にとっては癒される香りでも実は樹木自身を守る重要な役割があるようで、たとえば動物や昆虫などに葉や樹皮を食べられないようにするため、あるいはカビや細菌など微生物の侵入を防ぐため、さらには他の樹木の成長を阻む効果もあるとか…。つまり、その場に根付き移動することのできない植物にとっての自己防衛手段ってわけ。森の中にはいろんな堆積物(動物の排泄物や朽ちた落ち葉など)があるはずなのに嫌な臭いがほとんどしないのも、フィトンチッドの消臭・脱臭効果と空気浄化作用によるものらしい。言わば、天然の空気清浄機!? 自然は多くの神秘に包まれている。

登山口から1時間ほど、200mくらい登っただろうか…、空気がひんやりとしてきた。その先に風穴(天然クーラー)と書かれた⑦表示板が見えた。

3,000mの山々に囲まれ、河童橋を見下ろす

標高1,690m。ここは岳沢名所・風穴(ふうけつ)。冬の間、地中に形成された凍土によって冷やされた空気が大きな岩の隙間から噴き出ている。気温が上がる雪融け時期の6月から9月末頃までは冷気を感じることができるという。岩の上には覆いかぶさるように瑞々しい苔が生え、ゴゼンタチバナの小さな白い花がいくつも咲いていた。
清涼感いっぱいの休憩場所をあとに「もうちょっとで目的地だよ」と声を掛け合いながら、少し軽やかになった(ような気がする)足取りで歩を重ねる。

やった~!念願の⑥見晴台に到着。視界が一気に広がる。思った通り、いやそれ以上の絶景だ!梓川のくびれたところに河童橋が架かっている。記念撮影する人たちのフラッシュがここまで届いているのには少々驚いた。橋の左手には五千尺ホテル上高地の屋根が見える。反対側には上高地ホテル白樺荘、更に先には梓川下流域の緑の中に上高地帝国ホテルの赤い屋根がはっきりと見えた。

左手上空には2,450mの六百山。岳沢湿原から見上げると割と全体が丸みを帯びた姿をしているが、ここから見える六百山はてっぺんが意外にも尖っていて新鮮な感じがする。振り向けば西穂高岳の岩肌も間近に見えた。10月ともなれば辺り一面の紅葉・黄葉で、また一味違った格別の景色が見られるとのこと。ならば、その頃もう一度来てみようかと欲が出てきた。

ガレ場に腰掛け、北アルプスの爽やかな風を全身に感じる。ガイドの石原さんが用意してくれたドリップコーヒーを飲みながら、しばらくこの光景を眺めていた。山でいただくコーヒーは本当においしかった。

(2019.9.1取材)

*五千尺ホテル上高地では、また来年の夏に岳沢ガイドツアーを予定しているとのことです。もう一つの新たな上高地を発見できる良い機会ですので、ぜひご参加してみてはいかがでしょうか。

*今回の散策トレッキングはガイドツアー参加のため、届け出や保険などの手続きは代行されていました。岳沢の途中までとはいえ登山道を通りますので、個人で行く場合は登山届の提出や山岳保険の加入をお忘れなく。また、服装や靴・持ち物など準備はくれぐれも万全にして行きましょう。特に天候や気温の急変に備えて、雨具や遮熱・防寒対策も必要です。

ガイド/石原 裕美さん

プロフィール
トレッキングガイドやフラワーガイドなどに携わり約20年。全国の山々を歩き、スイスアルプス、ニュージーランドなど海外へも。「お客様との一期一会を大切に」がモットー。信州登山案内人、白馬マイスター、白馬山案内人組合に所属し、おたり森林セラピーインストラクターとしても活動している。

五千尺ホテル上高地 | 上高地公式ウェブサイト

絶好のロケーション、眺望第一楼 100年の伝統を礎にリブランドした格式あるホテル

Text by: M.Akazawa, Photo by: T.Okura

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