上高地を楽しむ

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上高地SPECIAL TALK

コロナ禍を逆手に相互理解と協力で、
新しい上高地観光を模索する…

JAPAN ALPS KAMIKOCHI Official website

異例の開山

厳しく長い冬を乗り越えて、ようやく目覚めの時を迎えた上高地。4月17日には上高地公園線の冬季閉鎖が解除され、2020年シーズンが幕開けとなりました。
ところが連日報道されている通り世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、今年は4月27日の開山祭も中止。関係者による安全祈願の神事のみ執り行いましたが、緊急事態宣言のもと各施設は臨時休業という例年とは全く違う異様なスタートとなってしまいました…。
上高地に限らず同様のコロナ禍が世界中に波及している中で、これまでに闘病を余儀なくされた方々、無念にも回復が叶わなかった方々やご関係の方々に、まずもって心よりお見舞いとお悔やみを申し上げたいと思います。合わせて日夜最前線にてご尽力されておられる医療関係従事者の皆様に敬意を表し、深く感謝を申し上げます。

特別対談 | 
今シーズンお客様をお迎えするにあたって

緊急事態宣言の解除に伴い、各施設はそれぞれに出来得る最大限の感染予防対策を講じて、5月下旬より順次営業を再開しています。
7月中旬の全施設営業再開に向け、今までの心境やこれからの上高地観光について各施設・各年代を代表してお三方に対談していただきました。

まずは3人のご紹介から

小林 清二|Seiji Kobayashi

中の湯温泉旅館 社長(66歳)。山が好きだったことから、大学卒業後すぐに上高地に携わり今年で43年。
2019年より上高地観光旅館組合長をつとめる。

鳥居 真太郎|Shintaro Torii

上高地ホテル白樺荘 副社長(27歳)。大学卒業後に専門学校でホテル業を学び、東京の某ホテルで経験を積む。
2019年より家業の経営に参画、将来を嘱望される若き後継者。

上條 靖大|Yasuhiro Kamijo

氷壁の宿徳澤園 社長(42歳)。大学卒業後、都内の大手旅行会社に就職。
結婚を機に家業の経営に携わり、2020年4月より現職に就任。

2月ころから、新型コロナウイルスのニュースが連日連夜次第に大きく報道されるようになりました。4月に開山を迎える上高地にとってこの時期は宿泊予約が始まり、従業員確保や仕入れなどの重要な準備を始める時期ですが、どんな心境でしたか?


小林

SARSやMERSが流行した時は日本にはそれほど影響がなかったような記憶があって、北海道では感染が拡大していましたけれど、それでも4月や5月になれば上高地は通常通り営業できるだろうと、正直楽観視していましたね。


鳥居

2月は今年度の売り上げ目標や方針を決める時期で、コロナの影響はまあまあ関係ないでしょう…と思っていましたね。一昨年度に大掛かりな改装をしたこともあって、むしろ上乗せの計画を立てていました。


上條

徳澤園は今年開業135周年を迎える節目の年で、3月13日に感謝の集いを開催する予定だったんです。年明けから本格的に準備を重ねている中で、新型コロナウイルスの感染力がすごいと聞いて、これはちょっとマズイなと。上高地や北アルプス山小屋関係の皆様はじめ広くご招待していたので、もし開催してクラスターが発生したら、これはとんでもないことになる。そう思って2月の下旬に開催見合わせの通知を出しました。そんな事があったので、皆さんよりは少し早く危機感を感じていました。


鳥居

決断早かったですよね。


上條

でも3月の終わり頃は、ゴールデンウィーク(GW)は営業するつもりで、5月中旬からニリンソウ見頃の時期は宿泊予約状況もよかったので大丈夫だろうと思っていました。それに今年は東京オリンピックの年でしたから、いつもより早く多めにバイト従業員を確保しなきゃ、という頭もありましたよね…。

4月6日に上高地観光旅館組合の通常総会がありました。毎年この1年の活動方針や様々な決定をする重要な会議で、各施設は営業に向けて思いを巡らせていたと思います。ところが翌7日に緊急事態宣言が発令されました。それ以降、臨時休業に至るまでどんなことを考えていましたか?


小林

緊急事態宣言に基づき、長野県知事から外出自粛や休業要請がありましたから、ここは一旦休業要請を受け入れてGWには営業再開というような考えでいました。特に長野県は昨年10月の台風19号災害で経済が大きく落ち込んでいたこともあって、総会ではGWは是が非でも営業したいという強い思いがありましたね…。


鳥居

緊急事態宣言は出ましたが、感染予防対策を十分とったうえで当初の予定通り4月23日には営業開始するつもりでした。上高地が始まるということは全国の春山観光が始まる、ということにつながっていると私は感じていますから、我々は営業しないといけない!という思いでいました。


上條

ぎりぎりまで営業する予定でいたということですが、最終的には休業要請を受け入れましたよね。決断に至るまでの経緯はどうだったんですか?


鳥居

県知事にはこれまで信州の観光振興で様々な施策を行っていただきました。ウイルスの蔓延速度が思いのほか早く、(感染拡大防止の観点から)その知事が『信州の観光はお休み』という苦渋の方針を出したことを重く受け止め、我々も休業という苦渋の決断をした、というところです。


上條

去年のGWは(新しい令和に変わったということで)10連休でしたよね。その分売り上げも大きなものがありました。今年これを上回るのは至難の業。短期決戦のGWも重要だけどそこは諦めて、徳沢としては(5月上旬から1ヶ月以上にわたる)ニリンソウの時期を大事にしたいという思いもありました。


小林

結局GWは中の湯史上初めて全休したわけですが…。しょうがないから家の片づけをやってましたよ。粗大ごみがたくさん出ましたけどね(笑)

外出自粛や県をまたぐ移動の制限が打ち出された結果、観光は不要不急のものとされました。5月いっぱいは休業せざるを得ないのではないかという状況の中、上高地として何か実施したことはありますか?


上條

長野県観光地のなかで上高地は、軽井沢とともに大きな位置づけだと個人的には自負しています。我々の行動いかんで長野県の観光のあり方や方向性が変わっていくような、ある意味指標になりやすい場所でもあると思うんですね。全国的に見ても、上高地開山祭を中止にしたことは大きな衝撃があったのではないかと思います。 そうは言っても我々としては商売もやっていかなければならない、でもお客様に来ていただくことができないというジレンマのなかで何ができるのか考えた時、上高地公式WEB内に『おうちでかみこうち』というショッピングサイトを立ち上げました。これは上高地ファンの皆さまから、休業中の各施設をなんとか応援できないかとの声をいただいたことから、各施設が今年販売しようとしていた商品をいくつか集めたもので、おかげさまで多くの方々にご購入いただき、感謝や励ましのコメントもいただいています。皆さんのところではどうですか?


小林

上高地は本当に多くの方々に支えられ、リピーターのおかげという面もあるので大変ありがたいと思っています。だからこそ営業再開した時にどうやったら恩返しできるかなぁ、と考えてますね。ただ、自分たち観光業は公益性のあるものと思っていたから、不要不急と言われたときはちょっとショックでしたけどね…。


鳥居

うちは食品アイテムが多かったんですが、本当に多くの方に購入していただき、励ましのお言葉も頂戴しています。『おいしかったわ』とか『上高地を感じることができました』とかのコメントを見ると、実際に宿泊していただいたわけではありませんが、お客様とのつながりを実感できました。


上條

我々はお客様と接する商売、対話をする商売なのに、急にお客様と距離を置かなければいけない状況になって…。それでも一番嬉しかったのは、買っていただいた物とか金額ではなくて、この物販を通して注目されているんだな、お客様とまだつながっているんだなって実感できたこと。『必ず行きます』とか『頑張ってください』とかのメッセージや昔の思い出を手紙で寄せてくれる方もいて、この時期お客様と接する唯一のツールだったのかなぁと考えると、やって良かったと思いましたね。

緊急事態宣言が解除されました。状況が悪化しなければ6月19日以降は県をまたぐ移動も解禁の予定です。現在徐々に営業を再開している施設もありますが、感染予防対策はもちろんのこと、それ以外に何か新しい取り組みなどがあればお話しください。


小林

感染予防対策で言えば、館内でのスリッパを使い捨てのものにしたり、(チェックイン時に)お客様には携帯のアルコール消毒液を渡したり、エレベーターが密になるのでお部屋までの案内をやめたりしていますね。今まで同じ時間だった夕食開始時間も2回に分散して、混雑しないように工夫しています。


鳥居

食事に関していえば、今まで対面で着席していただいていたのを横並びにしました。もちろん感染予防ということもありますが、うちはロケーションのいいレストランなので、せっかくですからこの雄大な穂高連峰の景色を見ながらお食事していただきたいとの思いがあります。お客様の反応はどうかなぁと思ったんですけど意外に好評で、ご夫婦やカップルなど照れながらも新鮮な感覚のようですよ。この時期だからこそできることを提案できればと思っています。


上條

それは新しい発見というか、普段は横並びで食べるのはなかなか恥ずかしいもんね…


鳥居

今の受け入れは全客室の半分にしていますが、夕食時も今までのように2回転しなくていいので、ゆっくりと景色を共有しながらお食事していただくことができます。お客様が減ることはマイナスですが、我々もお客様もしっかり対策をしていれば、むしろ安全に観光旅行をしていただくことができると思っています。


上條

自粛生活であれはやっちゃいけない、これはやっちゃダメって情報ばっかり入ってきて、みんな自粛疲れしてるなかで、夏に向かって活動意欲がどんどん高まってくると思います。上高地はアウトドアなので自然散策やトレッキングする上では、ソーシャルディスタンスを保ったり3密状態を避けたりすることができます。徳澤園はまだ営業再開はしてないんですが、7月の再開後はここでできる事とかやっていい事とか、そういった小さな幸せをたくさん集めてお客様に発信することを考えています。

緊急事態宣言が解除になったとは言え、新型コロナウイルスとの戦いは長期間になります。新しい生活様式のもと、観光スタイルについても以前とは異なると思われますが、今後の上高地観光はどのようなものになっていくとお考えでしょうか?


小林

今回のコロナ禍で感じたのは、人の移動がない分、空がきれいだなとか気温が少し低くなったかなって事ですかね。今までインバウンドで海外からたくさんの人たちが来ていたんですけど、暫く期待できないので国内旅行を積極的に受け入れて、近場や地元に根ざした観光というのも重要になってくるのかなぁと思いますね。 例年に比べれば2~3割程度の入り込みかも知れませんが、是非泊まりに来てこの静かな上高地を楽しんでもらいたいですね。朝、自然の中を歩けば鳥の声なんかもいつもより良く聞こえると思いますよ。


上條

古き良き時代の観光に原点回帰って感じですかね。


鳥居

今年に限れば観光バスでの団体ツアー客や日帰りのお客様が減り、個人や少人数で宿泊するお客様が多くなるのではと思っています。バス会社さんも密にならないように乗客を制限するなど対策をしていただいてますが、この先これがスタンダードになるのか分かりません…。


上條

例えば、オープントップのバスにするとか…。屋根がないので換気は大丈夫だけど寒いです、でもそのバスに乗らないと行けない場所なんです、上高地は。みたいなね。組合長がおっしゃったように、自然の不便さを味わってもらうのも上高地が生き残る一つの方向性かもしれないですね。


鳥居

まだ上高地に来たことがない方とか若い世代の方にもっとアピールしていく必要があると思いますね。ちょっと前の『山ガール』ブームで登山やトレッキングのアウトドア需要が上がってきたという面もあると思います。そこら辺を起爆剤にして上高地をもっと知ってもらうことが重要なんではないかな、と思います。


上條

(登山については)他のエリアでは今年は営業しない山小屋もあるようですが、北アルプスの山小屋は全て7月14日には営業を再開する予定です。3密状態を避けるため、もしかしたら完全予約制になるかもしれません。今年に関しては登山できる場所が限られる中で、以前のような賑わいはないのかもしれませんが、ある程度北アルプスに来ていただけるんではないかなぁと思っています。ただ、過ごし方についてはテントの利用が増えるかもしれません。徳沢にもキャンプ場がありますが、問い合わせが今年は多いですね。上高地は外で過ごす時間が多くて開放感がありますし、選ばれやすい場所なのかなとも思います。ちょっと明るい材料ではあります。


(続けて・・・)
今の観光をサッカーに例えてよく話をするんですが、ボールがあってそれを相手のゴールに入れるのに、手を使っちゃいけないというルールを誰かが作ったと思うんですね。初めはそんなんじゃできないよ!とかいろいろ論争があったと思うんですが、でも足や頭しか使えないことに慣れていった中で、これもできるんだ、あれもできるんだってやり方が生み出されていって、サッカーは世界で一番人気のスポーツになっていったんだと思います。
ところが今度は足も使っちゃいけない!というルールが加わったのが今の観光の状況だと思っていて、そんなんじゃ何もできないよって投げ出しちゃったらそれまでなんだけど。でも僕らにできるのは、制約の中でやれることを考えてあげることなんじゃないかなと。最初はお客様にも窮屈な思いをさせるかもしれないし、つまらないとソッポを向かれるかもしれないけど、文化と一緒でそれに慣れてきたら結構面白いじゃんって思ってもらえるかもしれない。やっちゃいけない事を前提に、新しいルールの中でやっていい事をお客様に提案できたら、観光業は生き残っていけると思っています。 今まではお客様に尽くすことがサービスだと思っていたんだけど、これからはお客さんと協力して楽しんでもらうこともありかなと。こんな時期だから受け入れてもらえるんじゃないかなと思ってます。具体的には、レンタルテントは今まで張った状態でお貸ししていたけれども、張る作業をお客様の体験として楽しんでくださいっていうのも例えば新しいルールで、そんなような次の新しいやり方を示してあげるのがこれからの観光業なのかなと思います。


鳥居

そう考えると、今まではお客様に何でもして差し上げるというのがスタンダードだったと思うんですが、これからは若い世代にフォーカスして僕らの考える新しい観光というものを浸透していければ、それが新しいスタンダードになってその次の世代にも受け継がれていくような気がします。もちろん今お越しいただいているご年配の方々も大切にしながら、若い世代への新しい取り組みをしていくことが必要だと思っています。

最後に、一言ずつメッセージをどうぞ


小林

自由に移動することができるようになったら、ぜひ上高地に来ていただいて、この素晴らしい自然を楽しんでいただきたいと思います。夏はとても涼しい所ですからね、避暑に最適です。


鳥居

これまで皆さんが自粛して外出を控えた結果、日本はいい方向に向かっているのだと思います。7月に向けて各施設は皆様を受け入れる準備を粛々としていますので、どうぞ安心して、リフレッシュのために上高地にお越しいただければと思います。


上條

言いたいことは一つです。われわれ観光業は不要不急の主役ではありません。この暗い世の中で、明るく楽しい娯楽を提供できる主役だと思っています。7月からは上高地・北アルプス一帯が楽しめる場所であることをどんどん発信していきます。我々が元気にならないと皆様も元気にならないと思いますので、是非上高地に来ていただきたいと思います。

対談を終え今お伝えしたいこと
お越しいただく際のお願い

アウトドアでの自然散策ということを考えればソーシャルディスタンスもとりやすく、いわゆる3密状態は比較的避けられる環境なのかもしれませんが、標高1,500mの上高地は亜高山帯に属する山岳地帯です。急病や感染症治療に十分な医療施設がありません。
それゆえお越しいただく皆様には、くれぐれもご自身の万全な体調管理をお願いいたします。また少しでも不安や不調などがある場合は無理せず、日程を延期するのも賢明な判断だと思います。
お迎えする側・お越しいただく側は感染予防のための言わば両輪で、双方の共通認識と相互協力が不可欠です。
本来ならば日本中・世界中からより多くの皆様をお迎えし、この自然豊かな上高地を満喫して欲しいところですが、当面は大変心苦しいお願いをしなければなりません。ご不便をおかけしたり窮屈な思いをさせたりする場面も多々あろうかと思いますが、普段では体験できないこともたくさんあると思いますので、それらを楽しみながら何卒ご理解とご協力をお願いいたします。

観光のカタチは変われど、
いつもの上高地がお待ちしています

有効な治療薬やワクチンができるまで、新型コロナウイルスとの戦いは長期間に渡ります。感染リスクを極力避けながら、新しい観光のあり方を模索し始めた上高地。まだまだ手探りではありますが、訪れる皆様と一緒に今後少しずつ『上高地スタイル』が形造られて行くのではないかと思われます。

上高地の先人たちは、この美しい自然環境の保全と次世代への継承を目的に、マイカー規制やゴミの持ち帰り運動などを全国に先駆けて実施してきました。
当初は賛否両論、懸念や戸惑い・反発なども少なからずあったと聞いていますが、迎える側訪れる側双方の理解と協力を重ねながら、今やそれらは上高地のスタンダードになっています。
そして近い将来、この新型コロナウイルスが収束する頃には、対談で示されたような新しいカタチの上高地観光が定着しているのかもしれません。

いま上高地は、春の訪れを告げるニリンソウの見頃がそろそろ終盤を迎え、小梨平では地名の由来でもあるコナシの白い花が満開になっています。
視線を落とせばエゾムラサキ、ツマトリソウ、マイヅルソウ、タガソデソウ、オドリコソウなどなど、薄紫や白、ピンク、黄と色とりどりの花が競うように咲き誇り、岳沢湿原や田代池・田代湿原あたりでは、レンゲツツジのオレンジが周りの緑と鮮やかなコントラストを描いています。昆虫や蝶たちは花々の甘い香りに誘われて舞い渡り、繁殖期の夏鳥はヒナのために幾度となく餌を運んでいます。梓川や明神池にはイワナが気持ち良さそうに泳ぎ、大正池のほとりではオシドリやマガモの親子が優雅に水面を滑っていきます。園路内ではニホンザルの親子にも遭遇します。
そして爽やかな風にオノエヤナギやケショウヤナギ・ドロノキなどの綿毛・柳絮(りゅうじょ)が宙を舞い、揺れる新緑は日に日にその濃さを増しながら夏の強い陽射しを遮り、やがて黄金色に輝く。夏鳥が去り冬鳥が飛来する頃、植物は実を結び山肌は少しずつ色とりどりの衣装を纏っていきます。

人間界が新型コロナウイルスで翻弄されている最中も、上高地の大自然はいつものように変わらず生命(いのち)の営みを続けていて、季節の移ろいとともにその時その時の表情で私たちを楽しませてくれます。

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