上高地を楽しむ

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【 かみこうち散策記 Vol.2 】ここにもあった上高地の魅力 コケ観察

モス・ウォッチング
Let's enjoy moss watching!
~遠くも近くも感動満載~

JAPAN ALPS KAMIKOCHI Official website

標高1,500mの別天地

釜トンネルを抜けて、いわゆる上高地の玄関口・大正池から奥上高地の徳沢・横尾までは全長約11km、緩やかな起伏で標高差が約150mの渓谷エリア。中心を流れる梓川、大正池や明神池、田代湿原に岳沢湿原、そしていたるところから3,000m級の北アルプス穂高連峰の稜線を望める上高地一帯は、水平・垂直方向に魅力的な景色が広がる類い稀な観光名所で、ここを訪れる幾多の人々を魅了している。

「コケ観察」って地味ですか? ところが…

最近は苔テラリウムと言って、ガラスやアクリルなどの透明容器の中に、コケを石・砂・流木などとともに自由にレイアウトして育てるのが流行っているらしい。コケを観察するために山に出掛けたり、室内で心癒されるコケ飼育を楽しんだりしている人たちも増えているようで、なかでも一時期話題となった山ガールならぬ「コケガール」が急増中なんだとか!?

そんななか先日、毎回好評で告知後すぐに参加定員に達してしまうという上高地ビジターセンター主催のコケ観察会とやらに参加してみた。

講師は、長野県自然保護レンジャーで日本シダの会会員、信州大学自然環境診断マイスターという肩書きを持つ竹重 聡(たけしげ さとる)氏。何やら堅苦しい人かと思いきや、ユーモア溢れる語り口調の気さくな人で、人気の観察会というのも頷ける。

そもそもコケとは何者?

事前にネット検索したところ…コケ植物(蘚類・苔類)は根を持たないので全身で水分を取り込み光合成をして成長する。目に見えないミクロの胞子を排出して繁殖し、樹木や石、地面などに仮根(かこん)というもので張り付いている。コケ類に似たもので地衣類というのもあって、これは菌類が藻類と共生しているものらしい。なんとも魔訶不思議な生き物…

観察に出掛ける前にビジターセンター内のレクチャーホールで予備知識を習得。日本国内には少なくとも約1,700種類のコケ類があるらしい。当然上高地にも相当数あって、そのうちの本日観察できる20〜30種のコケをスライドで見せていただいた。

竹重先生のスライド説明

さあ、いよいよフィールドへ。2時間という限られた時間でのモス・ウォッチングのスタート。まずは小梨平を抜けキャンプ場脇を流れる中川付近の風穴に向かう。この辺り一帯は特徴的なコケがたくさん見られる知る人ぞ知るコケスポット。
ここで見つけたのはクモノスゴケ、ジャゴケ、スギゴケ、日本固有種のムツデチョウチンゴケなど…いく種類ものコケがまるで陣地を奪い合うかのように密集している。イワダレゴケの葉は毎年一段ずつ増えていくので、その段数で何年ものかが分かるという。中川風穴の手前の斜面にはフジノマンネングサやコウヤノマンネングサ、フロウソウ、シノブフサゴケなどが…。
「ルーペで覗いてみましょう」と竹重さんが促す。

そうそう、コケ観察にはルーペが欠かせない。今回その理由がよく分かった。
コケの上にルーペをかざし、鼻先がコケに触れるくらい近づいてレンズを覗き込む。肉眼ではよくわからなかった葉や茎の形、模様なんかがくっきりと現れた。お~っ、感動の瞬間!
今回観察用に調達したビクセンのメタルホルダールーペは、倍率も10倍でコケのイキイキとした姿形がよく見える。最初ちょっと小さいかな?とも思ったが、ちょうど瞳くらいのサイズ感で慣れると実に使い勝手が良い。(*個人の感想です)
まだまだ一定の距離を保つことが求められる世の中、でもここは思いっきり近づいてルーペ越しのコケジャングル探検を楽しもう!

斜面の小さな洞穴を覗き込むとヒカリゴケがひっそりと横たわっていた。それを見ながら腰を少しずつ下ろしていくと、ある高さで光って見える。これはヒカリゴケの原糸体にレンズ状の細胞が集まっていて光が反射して見える、というカラクリ。ヒカリゴケ自体が発光している訳じゃないんだって!!!

ヒカリゴケ

来た道を戻って河童橋方面に向かう。道すがらのカラマツには手触りふかふかのタカネカモジゴケ、上高地ビジターセンター前のコナシの樹皮にはイタチゴケがついている。持ってきたビクセンのコケ観察セットにあったスプレーボトルがここで大活躍!水を噴霧すると、イタチの尻尾のように丸まっていた先端が見る見るうちに真っ直ぐ伸びて太くなっていった。

コナシの樹皮にイタチゴケ

MEMO①

ビクセンのコケ観察セット

メタルホルダールーペ・ストラップ・スプレーボトル・ピンセット・ガイドブックが一式ビニールポーチに入っています。小型ルーペは見口が広く高倍率、スマホカメラとの相性も良く拡大撮影が可能で携帯に便利なストラップ付き。乾いたコケに適量の水を噴霧できるスプレーボトル、蛇腹のガイドブックはコケ観察の基本や16種類のコケが掲載されていて、水に濡れても破れない紙質。これらが防水性の高いビニールポーチに入っているので、湿地や沢などの水辺フィールドで濡れちゃっても安心です。

詳しくはコチラ

まだまだいるよ、 キュートな主役(MOSS)たち

清水川を橋の上から覗き込むと、明るい緑のバイカモに寄り添うように黒緑のクロカワゴケが流れに身を任せていた。清水橋の下流、梓川に合流する手前の川辺ではクロカワゴケに触ることができる。けど、水が冷たくて大変!近くには水辺を好むオオバチョウチンゴケ、ミズシダゴケもしっかりありましたよ。
五千尺ホテルの生け垣の根元にはネズミノオゴケ。細長く垂れ下がった形がネズミの尻尾のように見えることからついた名前とは裏腹に、エメラルドグリーンの綺麗な姿は、苔テラリウムとしても楽しまれているんだって。
(*中部山岳国立公園内の上高地では、植物の採取等は禁じられています。)

清水川

河童橋を渡ってホテル白樺荘の東側、穂高連峰を一望できる展望エリアに到着。積み石の一角で見つけたアカミゴケは、実はコケ類ではなく地衣類。ラッパ状の先端が赤くなっていた。緑のなかに点在する極小の赤が印象的で、これはすぐに覚えられそう。

アカミゴケ

最後に向かったところは、その先にある治山道路のゲート左脇。樹皮についていたのはヒムロゴケ。比較的大きいコケで、天気が良く少し冷んやりとした風が吹いていたせいなのか、今日は乾いてアフロヘアーのようにモコモコっとしていた。

ヒムロゴケ

こうしてあっという間の2時間が過ぎ上高地ビジターセンターに戻ると、正面の低い石階段で柔らかな日差しを浴びたハイゴケが我々の帰りを出迎えてくれているようだった。

MEMO②


上高地ビジターセンターでは、上高地の魅力をより深く感じてもらうプログラムとしてシーズンを通じ様々なイベントを開催しています。

ガイドウォークはじめ早朝バードウォッチング、樹木観察会や人気のコケ観察会など、興味ある方は是非参加してみてはいかがでしょうか。新しい発見がきっとあるはずです!


詳しくはコチラ

コケ観察会のあと、復習も兼ねて明神方面に向かう。ついさっき来た小梨平中川付近の風穴岩あたり。ヒカリゴケにスギゴケ、なんとかマンネングサってのもあったな。えっとこれは何だっけ?名前が思い出せない、っていうか覚えたつもりが覚えていない…。でもまあ、コケ初心者としては今日一日で数種類のコケが見分けられるようになっただけでも大収穫!

徳沢で見つけたハート型の正体は!?

そういえば春に訪れた徳沢で見つけたハート型のコケ。その時撮った写真を見せて竹重さんに訊ねてみると「現物を見てないから断定はできないが、これはコケじゃなくて地衣類に属するウメノキゴケ科の一種のようだ」とのこと。 この日は時間の都合で徳沢まで行くことはできなかったが、地衣類はその範囲を広げるまで結構な年月を費やすらしいので、まだハート型をキープしているはず。 徳沢に行ったら探してみて。見つけられたら何かしらの幸運が訪れるかも…なんてね。

*プチハッピー

ハート型を見つけたその日の帰り道、立ち寄った五千尺ホテルのラウンジで注文したコーヒーに、なんとハート型の泡が浮かんでいました!

遠・中・近、はるか彼方に目と鼻の先
いたるところに見つかる「かみこうち」の魅力

冒頭でも触れたように、上高地は水平方向にも垂直方向にも魅力的な景観が広がっている。それぞれの場所は、早春-新緑-盛夏-錦秋-初冬へとその表情を豊かに変えていく。そうした時間の流れ以外にも〝距離〟という視点から上高地を捉えてみると更に面白い。

遠くには穂高連峰や焼岳、六百山、霞沢岳といった雄大な山の景色。中距離には梓の流れや池、湿原、生い茂る原生林やそこに息づく野鳥の数々。そして近くに視線を向ければ可憐に咲く色とりどりの花、花から花へと舞う蝶、水辺にはイワナやオシドリ、マガモなど。更に更に、遥か彼方の遠くには漆黒の闇に煌めく無数の星、星、星…。そして対極のより近い目と鼻の先には、樹木や岩に生きるコケ類の神秘的なミクロの宇宙が広がっている。

興味次第でこれほどまで多彩に楽しめるところが「かみこうち」。上高地を構成するそれぞれのパーツは、季節や刻の移ろいとともにまた新たな表情で感動を私たちに与えてくれる。その5文字には、そんな無数の魅力が鏤められているんじゃないかとさえ思えてきた…。

MEMO③

上高地では、ただいま上高地公式インスタグラムプレゼント企画【上高地で深呼吸2021】を開催中です。今シーズン上高地で撮影した写真を投稿すると、抽選でステキなプレゼントがもらえます。応募期間は2021年11月30日まで。

Text by: M.Akazawa, Photo by: T.Okura

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