「椎名誠さんの『あやしい探検隊』って小説ありましたよね、それのテレビ放映を学生の頃仲間と一緒に見ていて。島とかに冒険に行ってキャンプして帰ってくる、冒険といっても誰でもできそうなことなんですけど、なんか真剣にやっている…。他愛もないことで楽しそうにはしゃいでいる大人たちの光景を見て、カッコイイなぁって思ったんですよね。自分もこういうことしたいって。」
「当時は登山とかキャンプとか全く知識がないまま、サンダルで山に行って、ピークハントって知識もないし、ただ山に行ってうろうろして帰ってくるだけでしたけどね。でも、ものすごく興味が湧いてきて、アウトドアショップに行って登山道具やキャンプ道具を物色していく。またそこで衝撃を受けたんですけど、野外で調理をするときのバーナーってありますよね。それがかなりメカニカルで、すごく小っちゃくなるじゃないですか。で、組み立てていってそれが大きくなったり小さくなったりするギミックが今までの生活の中になかったので、衝撃でしたね。こういう道具を持っていくんだっていうことで、道具にも興味が湧いてきてアウトドアがより楽しい領域になっていきました。」
「そこからバイトしながら道具を揃えていって、登山をし始めるんですけど、最初に買ったテントはブルーシート素材で作られたホームセンターで売っている安いものでね。早速仲間と一緒に山で泊まるってのをやってみようと、山の中腹に広がるゴツゴツした岩場でキャンプしようってことになって、スーパーで仕入れた食材をみんなで食べたりして、それがものすごく楽しくて…。楽しすぎてテントの中で寝るのも忘れるくらいで、結局岩の上で寝てたんですけどね。朝起きてみたらテントが風で飛んでて…、ペグダウンとかもよくわかってなかったから。下のほうに転がっていて最終的には回収できたんですけど、なんかそれもすごく楽しかったんですよね、野外に自力で泊まるってのが。それが最初のキャンプでしたね。強烈に印象に残っています。」
「新潟にも素晴らしい山はたくさんあるんですけれども3000m級の山は少なくて…。北アルプスは新潟県人としては憧れの地で、何度も訪れてみたい場所。新潟にいた頃は一番乗り降りしたのが松本インターですね。しょっちゅう上高地にも来ていて、新潟からだと前日沢渡で車中泊して翌朝上高地に行って、登山の行程的にお昼くらいにまた沢渡に戻ってくることが多いので、新潟へ帰るまでの時間に松本の街を見てまわる。それくらい松本の街はよく訪れていましたし、松本で生活している人がすごく羨ましかった。自分ももし縁があったら住んでみたいなぁと常々思っていました。」
「アウトドアという職種的にも自然の中にいたほうがスムーズに事業を展開できるだろうし、我々の商売は平たく言えば物流なので、お客さんも北は北海道から南は九州までいて、全国に納品することを考えたら日本の真ん中にいたほうがいい。しかも大雪のリスクがない太平洋側で…と考えたら自ずとここ松本あたりになる。あと港も中京・関東と選べることを考えると海外からの物流もスムーズにいくし、やっぱりここしかないと。」
「機能を追求していったその先に美しいものが現れる、だからとにかくその機能を集中して考えてやっていくという価値観でずっとやってきたんですけど、最後の最後でそういうのとはちょっと違う次元で、なんか手直ししている自分が常にいて、調整している。バランスを良くしながら機能だけを追求していても美しさが現れない場合の方が結構多くて、やっぱり機能の塊になって行くんですね。
機能を追求しなきゃいけない道具なので、それはそれでいいんですけど…。でも僕らが何故アウトドアに行くのかって言うと、アウトドアっていろんなジャンルがあると思うんですけど、写真を撮りに行く、尾根歩きもそうだしクライミング、カヌー、マウンテンバイク、あらゆるアウトドアの中で美しい世界を見に行くっていうことだけが共通していると思うんですよね。」
「だとしたらそこで使う道具にも美しさっていうものがなきゃいけないんじゃないかと思う。やっぱり自然の中にポンと置く道具なので、自分が見ている景観の中に機能の塊があったら興ざめしちゃいますよね。そうじゃなくて、それも一緒にピクチャーのなかで映えるべきものだと思いますよね。
自然界の美しさと人間が作る美しさとは違うんだけど、人間の視点から見て美しいかどうかを判断しているわけで、そこを追求していくべきなんじゃないかなと思います。」
「もちろん機能も追求しながら美しさも追求していくっていうのが高次元できるんだったらいいかなって思いで、フォルムもそうなんですけど、色も機能や美しさの一部なので、自然の中で美しく映える色っていうのを考えていったらあの色になったってことですかね。
いろんな人にいいね!って言っていただきたいので、あの色はめちゃくちゃ吟味していて、あれよりちょっと濃いめになると男性が喜ぶんですよ、ミリタリーっぽくて。でも女性は引いていくんですよね。逆にあれより薄くなっていくと女性は喜ぶんですよ。でも今度は男性が引いていく。だから女性も男性も老若男女みんながいいねって言う絶妙な色を選びました。」
「日本で使う道具なので、ちゃんと日本語を使って美しいものを表現したい。海外のどこの国の言葉だろうなぁっていう雰囲気があると思うんですけど、みんなあれ実は日本語で、漢字に変換できるんですよ。でも日本人て外国の言葉に弱い。島国なので目線は外に行くんですよね、そういう心理もわかっていて露骨に漢字で表現するよりも、どこの国の言葉だろう?って思うような音で、カタカナ表記にしているんです。英語とかドイツ語とかじゃなく、国を限定しないどこの国か分からないような音にしたいと思って。ちょっと違和感のあるようなネーミングが多いと思うんですけれども、それが1つの特徴になっているのかもしれませんね。」
「ゼクーはおそらく自社のフラッグシップモデルになるだろうと思ったので、仏教の教理『色即是空』から付けたネーミングで、-有って無いもの- みたいな意味なんですけど。ものづくりをする上では『色即是空』という言葉はマッチしてないのかもしれないけど、そう名付けたかったんですよね。」
「結局のところ、ものを生み出していくっていうのは欲求の行為であるわけで、そこは常に自分を見つめながらやっていく。
社名のゼインアーツもそうだし、ゼクーという商品も一番最初に生み出したものなので、これから作っていくモデルに対してもそういう気持ちでありたいなと思うし、僕が作っているものは『有るけど無いもの』みたいな、そこは禅問答のように迷って迷ってやっていきたいなという感じです。僕にとっての戒めですね。
それと、まずは事業を立ち上げての一発目のプロダクトだったので、これからおそらく永続していくだろう会社の、未来の社員に向けたメッセージでもあります。」
「もちろんこれからも皆さんが求めるものをコツコツ作っていきたい。アウトドアという大きなジャンルの中では、これを作っちゃいけないとかいう気持ちは全然ないので、登山用品とかアクティビティー用品とかも作っていきたいと思っています。今はまだキャンプにフォーカスしているけれども、これからジャンルを広げていって自分の作れるものは作っていきたい。
ただ総合メーカーとしてラインナップを揃えたいとかそういう事は思ってなくて、自分の身の丈に合ったものづくりの中でこれが無いから作るっていうんじゃなくて、自分が作っていいもの、自分の知識やスキルがあるものに関しては作っていきます。」
自分が作り出すものの美しい形って何なのか...
神社仏閣が好きでよく見に行くんですけど、
神社のどこが美しいかっていうと屋根なんですよね、
僕が一番惹かれているところ。
曲線を描いてスーッと伸びてきて、
軒でスパーンと切れるじゃないですか。
僕はそこに美しさを感じているし、
おそらく日本人の多くも。
何故かといったら、小さい頃みんな習字をしますよね。
筆の「はらい」と「とめ」 それで文字の美しさを学ぶ。
だから神社いいよねって日本人が共通して美しさを感じる原点は、
そこにあるのかなって思いますよね。
スーッと伸びてきたところで内側に切れ込む美しいライン。
その要素を取り入れたのがうちのテントで、
しかもこの軒構造って機能的なんですよ。
雨が降ってきても吹き込まないし、
ベンチレーションも開けたままにしておけます。