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キャンプギアクリエイター・小杉敬⑵ 憧れの上高地

上高地 SPECIAL TALK

キャンプギアクリエイター・小杉敬⑵ 憧れの上高地のイメージ

よく雑誌やテレビでも見ていたし、ここかぁ!みたいな…。
終始テンション上がりっぱなしで、もう楽しくてしょうがなかったですね。

小杉 敬(こすぎ けい)さん

株式会社ゼインアーツ代表取締役社長。長野県松本市在住。キャンプギアクリエイターとして数々のプロダクツを設計開発。手掛けたテントは発売と同時に売り切れるほどの超人気商品で、いま最も手に入りにくいブランドである。

SCENE 2

小杉 敬 上高地、松本を語る…

上高地に最初に来たのはいつ頃ですか?その時の印象はどうでしたか?
小杉
「初めて来たのは社会人になってからですね。ずっと憧れの場所で、まずは涸沢カールに行きたいってことで、登山をきっかけに訪れたのが最初です。涸沢から奥穂高に登って2泊して帰ったのかな。
最初はテンションめちゃめちゃ上がってましたね、わぁ上高地に来たー!やっと来たーみたいな。もう楽しくてしょうがなかったですね。
バスターミナルに降り立った時、観光客と登山客とが入り乱れて活気づいているじゃないですか。こういった素晴らしい景色にも出迎えられて、それが来た者にとってみたら非常にウェルカムみたいな雰囲気を感じました。
河童橋でみんな写真撮って、みんな笑顔だし楽しそうだし、気持ちが高ぶらないわけないですよね。」
小杉
「だんだん奥に行けば行くほど人がまばらなって、少しずつ勾配が上がってきて急な傾斜も登っていくと、どんどん気分が高まってくる。
いろんな楽しみをもっていろんな人が訪れている場所なんですが、歩いていくうちに登山者しかいなくなって、周りがだんだん趣味を同じくしている人たちになっていくっていうのもいいんですよね…。
その後もいろんな山に登りましたけど、最初に訪れた上高地が一番テンション上がってましたね。楽しかったですよ。天気も良かったしね、最高でした。」
上高地には小梨平・徳沢・横尾とキャンプ場が3つあります。それらを含め上高地での楽しみ方ついてはどのような考えをもっていますか?
小杉
「僕はもともと山に登ることを目的に上高地に訪れたので、その当時は小梨平も徳沢もあまり意識はしてなくて、正直一登山者としてはそれほど関心を持ってはいなかったです。と言うのもその奥で泊まることにフォーカスしていたので。」


上高地WEB委員( 以下WEB )
「ここ2~3年、コロナ禍でアウトドアが注目されていて、道具をきっかけにキャンプする人や、登山者だけではなくて上高地で初めてキャンプする人も増えてきました。」


小杉
「自分も長年この業界にいますけど、いまアウトドア業界も変化してきていて、多様性っていうんですかね、いろんな楽しみ方が出てきている。昔と比べて『こうでなければいけない』ってものがどんどん取っ払われていて、いろんな遊び方をみんなが試行錯誤して楽しむ状況ができてきている。それを受け入れる土壌がそもそもあるのが上高地だと思います。
昔はキャンプも登山も何か知識がないとやっちゃいけないものっていう雰囲気があって、アウトドアショップに行くと怖そうなオーナーが『何しに来たんだ』みたいな感じでしたよね。
でもやってみて思うのは、アウトドアを楽しむのにもいろいろあって、そこまで知識がなくてもやれる範囲ってのもあるし、もちろん知識があってやる部分もあるし、それぞれシチュエーションによって違うじゃないですか。みんな一律じゃないってことですよ。」
小杉
「そう考えたら、あらゆる受け入れ口がちょうどよく綺麗にグラデーションになっているのが一番いい。上高地はそれが物理的にわかりやすくできていると思います。
登山はしたくないんだけど、自然を楽しみたいという人たちはこの辺を散策すればいいし、もうちょっと自然の中に入りたいっていう人は小梨平とか徳沢、横尾のキャンプ場に行って、さらにその先というふうに選べる。それができるってことがものすごくいいんですよ。
それにみんながみんな健常者じゃないってことですよね。体も歳を取ると衰えてくるし。上高地には様々な方が楽しめるシチュエーションが揃っているのが素晴らしいことだと思います。」


小杉
「もともと僕はスピードハイクをやっていて、誰かのブログを見て、この人がこのコースタイムでここまで行ったから、自分はさらに上を行ってやるみたいに、かなりストイックに攻めていた時期があって。どこまで食わずにいられるかみたいな肉体的チャレンジっていう過酷なことも好んでやっていた。
でも年を重ねると何かそれにも疲れて、自分は何を求めているのかなぁとふと立ち返った時に、やっぱりそういうことじゃないんだろうなって…。もう少し歩を緩めてゆっくり登ってみることもたまにはいいなぁって思ったんですよね。そこから変わりましたよね。
時にはハードなこともするけど、楽しみ方はそれだけじゃなくて、別に山に登らなくてもここでキャンプして、ゆっくりコーヒー飲んで楽しむってのも十分楽しいし、こうでなきゃいけないってのを取っ払っていろんな楽しみ方をするのもいいなと思いますね。もちろんルールを守っての話ですけど。」


WEB
「先ほど小杉さんもおっしゃったように、上高地は縦に長い観光地なんでいろいろな楽しみ方ができるところです。ここら辺を散策するもよし登山するもよし、キャンプするもよしホテルに宿泊するもよし。いろんな人に来てほしいですね。」
上高地のある松本の魅力はどんなところにあると思いますか?


小杉
「上高地の景観は世界に誇れる景観だと思うし、本当にいろんな人に来てほしいと思いますね。僕が松本を選んだ理由は、文化・文明・自然がちょうどいいバランスで成立している場所だから。そういう場所を探していた。文明の行きつく先東京は心の豊かさを求めるには違うかなと思うし、京都のような素晴らしい伝統文化があるところは観光地化しすぎてしまって僕の住む場所とはちょっと違う。これからの時代は人間の豊かさを考えたら、自然のボリュームがある程度ないと豊かさを得ることができないと思う。かといって文化文明が全くないのも不便な生活を強いられる。最低限必要なものが手に入って、誇れる文化もあり、自然が豊かなところで心も豊かになると考えたら、松本のポテンシャルって果てしなくあるんですよ。
アウトドアやっている人で松本を知っている人は結構多くて、北アルプスはみんなが知っている場所。他の県や他のエリアに比べると世界に知られている点でも、相当有利なポジションにいると思います。」
小杉
「いろんな地域を見て思うのは、やっぱりオリジナリティが大切だということ。その点では松本は唯一無二の存在に見える。チェーン店に行くよりは地元のオーナーがやっているお店に行くことにステイタスを感じようとしている人も多い気がします。」


WEB
「松本の人って結構排他的なところがあるんですよね…。」


小杉
「新潟から上高地によく通っていた頃感じたのは、松本インターを降りて上高地に向かう道中がすごく寂しい感じがして、上高地に行くのに気持ちが全然高ぶってこないこと。狭いトンネル通って、また帰り道も同じで…。 先ほど上高地はいいグラデーションができているって話をしたんですが、松本の街と上高地との間にもグラデーションを作るべきだと思うんですよね。」


WEB
「これは長年の課題で、道路は少しずつ改良工事が行われて広く明るいトンネルもできました。上高地はマイカー規制があるので、バス・タクシーの乗換え場所として沢渡・平湯が上高地の玄関口になっている。気持ちを切り換える場所でもあるし、なんらかの商業施設がもっとあればいいと思います。」


小杉
「例えば、沢渡は飲食エリア。駐車場がメインなので、乗換えの場所でいかにゆったりとした時間を過ごせるかということを考えたら、そこは物販というよりはやっぱり飲食エリアでしょう。アウトドアを感じるような、おしゃれな飲食店が並んでいるといいですよね。
松本インター近くは我々のようなアウトドアショップが集まっているエリア。観光客や登山客だけじゃなくて街の人たちも利用できるような。松本はやっぱりアウトドアだよねって感じさせる場所が、まずインター降りたらあるといいですね。」


WEB
「そうなれば松本から上高地へのグラデーションができますね。それと松本の街でいいなぁと思ったのは、リュックを背負った人たちをよく見かけること。あれって他の街にはない光景だから、それがもっと馴染んだ街になってくれば、市街地と上高地が一体となれるような気がします。 マッターホルンで有名なスイスのツェルマットなんかは山も楽しめるし、下りて来たら街も楽しめるようになっているじゃないですか。そうなっていけば更にいいなぁと思いますね。」


上高地公式WEBサイトのスポンサーでもあり、このほど環境省と中部山岳国立公園のパートナーシップ協定を締結されました。今後の取り組みについてお聞かせください。


小杉
「ここに住んでいる以上はこの美しい環境を守っていかなければいけないし、それをアピールしていく義務があると思っています。
企業のやれることって多分資金を集めること。売上というかたちで集めた資金の一部を自然環境のために還元していくことができれば、非常に意味のある事です。結果的にそれがここに住んでいる人たちや自分の豊かさにつながっていくような循環ができればいいなぁと思います。」
小杉
「みんなが住みたい街になればいいなと思っていて、自分の事業は金儲けよりも先に、まずはみなさんに喜んでもらうことをゴール地点にしてやっているので、この街もそうであってほしいなと思いますね。 人を呼んでどんどんお金を落としてもらうんじゃなく、ここに住みたいっていう街にすることによって自ずと人が集まってくる。 人間としてこういう街が究極だよね、というような街づくりをみんなでやっていって、住みよい街を具現化していくことができるといいかな。 そのためには自分たちがこんなに豊かな環境のところに住んでいるってことをちゃんと自覚して、それを楽しむことができれば自ずとそれが発信源となってアピールにもつながっていく。 だから僕らももっと楽しまなきゃいけないし、もっともっといろんなところを利用して楽しみを発見していきたいと思います。」


小杉
「恥ずかしながら、この辺のホテルに泊まったことがないんで…。今後は積極的に泊まりたいなぁと思っています。」


WEB
「是非、お待ちしております。」


(取材/2022.7.20 上高地ホテル白樺荘 穂高連峰が間近に見えるラ・ベルフォーレテラスにて)
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